« 2012年3月 | トップページ | 2012年5月 »

2012.04.24

江戸川区こころのフォーラム

1111jikei 昨23日、持田製薬の主催で小岩・ニューオークラにおいて標記研究会が開催されました。特別講演「うつ病の診断と治療」の演者は東京慈恵会医科大学葛飾医療センター院長で精神神経科教授の伊藤洋先生でした。「なぜこれまでのSSRI(のうちパキシル・ジェイゾロフト)は効かないように見えるのか」「SNRIのリフレックスは50%の人には良眠と劇的な効果が現れるのに残りの人たちにはただ翌日もフラフラするダメな薬と言われるのか」「トリプタノールは本来眠れる様にしてくれる薬なのに一部に不眠を訴える症例があるのか」などの疑問があったのですがそれらすべてに明解な回答を得ることができたご講演でした。
 いくつかのtipsを列挙しておきます。「SSRIは不安をとってくれるがSNRIは心を賦活してくれる」、「『すっと寝ていることができたら楽だと思うことがありますか』と尋ねてイエスだったらうつ病の可能性が高い」、「『寝るためのお酒』が必要な人はうつである」、「いくつかの抗うつ剤を最大量まで使用して効果が得られなかったら精神神経科へ紹介を」、「普通の降圧治療を行って血圧の下がらない高血圧症患者さんはOSASがないか疑うべき」。いずれも、非常に役立つフレーズでした。
 なお、最近ある精神神経科医から「もう打つ手がないから神経内科にかかれば」と言われてしまったといううつ病の患者さんがおられました。これを話すと言下に「それは由々しき問題」と言われました。うつ病はどこまで行っても最終的に精神神経科でないと診療が困難な疾患です。一般の内科医よりはわれわれ神経内科医の方が若干の経験はありますが、やはり難治例はプロにお任せしないとなりません。これをしっかり確認していただいたことも大きな収獲でした。
(写真は昨年11月に開催された慈恵葛飾医療センター内覧会時のものです)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.04.21

プラザキサ学術講演会:1年間の使用経験を踏まえて

 丸ビルホール&コンファレンススクエアにおいて標記研究会が開催されました。演者は金沢大学付属病院朝倉英策准教授と東邦大学循環器内科杉薫教授のお二人でした。僕は朝倉先生の座長を務めさせていただきました。
 何回か書いているとおり、ダビガトラン(商品名プラザキサ)は、心房細動の患者さんの脳塞栓症予防効果を有する抗凝固剤で、これまでのワーファリンに代わる新世代抗凝固剤として昨年登場した薬剤です。腎障害などの問題があり、これまで投与方法として確立している「110mgを1日2回(計220mg)」もしくは「75mg2カプセルを1日2回(計300mg)」しか保健適応がありませんが、われわれ医療者の間ではもう一段少量の投与「75mgを1日2回(計150mg)」を実現できないか(有効性の確認と厚生労働省の認可)がいつも論議されています。
 杉先生のご意見は「150mg/日投与によって脳梗塞のリスク回避がどれだけ可能かというデータが出ていない現時点ではなんとも言えない」というものでしたが、朝倉先生はそうしたエビデンスについては重要であるものの、血栓止血方面の専門としてのご意見を「私見」として表明しておられました。ワーファリン使用のモニタリングにはPT-INRが用いられますが、最近出たいくつかの研究会では「ダビガトランにはAPTT、さもなくばそれ自体の薬剤血中濃度(普通には測定できません)を」というのが定説でした。朝倉先生はモニタ要素を「副作用」と「効果判定」に分け、副作用についてはAPTTとPT-INRの併用、効果については可溶性フィブリン(soluble fibrin,SF)、プロトロンビンフラグメント(F1+2)、TAT、D-dimerのいずれかを用いれば年余の経過を見るよりもその患者さんの評価ができるはず、とお話になりました。そうであれば、150mg/日投与でも年何回かの血液検査で追いかければ副作用と効果判定が可能であり、徒手空拳でエビデンスデータのみで投与しているよりは安心して患者さんに対応できるのではないかと思われました。
 このダビガトランを始め、今週発売が始まったリバロキサバン(商品名イグザレルト)はともに血中半減期が短く(それが利点でもあり欠点でもあるのですが)モニタリングが困難となっているのですが、できれば薬剤を複数放出時間の除放マイクロカプセル化した製剤にしてしまえばいいわけで、そうした方向での開発も検討して欲しいところです。これは杉先生にも「そうなったらいいですね」とご同意いただけました。なお、朝倉先生は教室ブログ(!)を担当しておられ、エントリー数も多くいろいろ勉強になります。なお、先生はMacユーザーでした(いいね!)。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2012.04.07

プラザキサ全国学術講演会

1204plazakisa ザ・プリンスパークタワー東京にて標記講演会が開催されました。ダビガトラン(商品名プラザキサ)は昨年春に発売され、途中腎障害などを中心とした患者さんの死亡事故などからブルーレターが出されたものの発売後1年が経過し、4月から2週間分の投与制限が解除されました。これまでワルファリン(商品名ワーファリン)しかなかった心房細動の患者さんの脳梗塞発生を抑制することができる抗凝固剤で、僕も2度ほど使用経験を講演したことがあります。
 今回はシンポジストの先生たちが1時間半ほど演壇上に出っぱなしと言う変わった構成でした。改めて確認されたことは、本薬剤の投与開始直前直後にはクレアチニンクリアランス(Crnn、年齢、性別、体重)・ヘモグロビン・aPTTなどのチェックが必要であること、でした。そして使用して良い患者さんを見極めること(65歳ぐらいまで、腎機能が良く、体格もありなるべく男性という基準)も重要であるという趣旨でした。75歳を過ぎていたら投与は考え物である、とのこと。しかし、我々市中で開業している医療機関にはこういった「よい」条件の心房細動患者さんはあまり現れないのも事実で、「贅沢を言っているわけにもいかない」のです。aPTTは血液凝固のひとつの物差しですが、施設基準の2倍を超えるまで延長したら(だいたい50秒を超えるぐらい)使用は差し控えた方が良い、との目安も明らかにされました。14日間の投与制限解除で最大90日分まで投薬が可能になりますが、できれば30日分にとどめ、定期的な血液検査をすることが勧められました。
 ワルファリンは投与量の調節をきめ細かにすることが大切(そのため来院の度にPT-INRの血液検査を行いできれば至急検査で結果を評価する)ですが、このコントロールがうまくいかない症例がおり、こうした患者さんにダビガトランを出したかったわけですが、こうした「PT-INRの安定しない患者さん」は服薬コンプライアンスが悪いだけのことがあり、ダビガトランを導入したからと行って状況が改善するわけではないというお話もありました。
 懇親会で心臓血管研究所:山下先生に意地の悪い質問をしてみました。「70歳でダビガトランを開始した人が何事もなく5年経ったらどうしたらいいんでしょうか?」すると、山下先生は「5年経った時点で考えましょう、その頃にはより小容量のダビガトランやもっと良い薬が出ているかも知れないから」。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年3月 | トップページ | 2012年5月 »