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2012.08.16

「脳過敏症候群」に関する頭痛学会コメントについて

 女子医大頭痛外来の清水俊彦先生が提唱している「脳過敏症候群」についての頭痛学会理事長坂井文彦先生のコメントが頭痛学会ホームページで8月14日付けで公開されました。
 「脳過敏症候群」に関しては、清水先生が国内・国際学会で積極的な研究発表を行い、実際抗てんかん薬であったバルプロ酸(商品名デパケン、セレニカ)やトピラマート(商品名トピナ)の片頭痛に対する治療効果から「ありうる説だ」という理解が広まりつつありました。昨年はバルプロ酸の片頭痛に対する厚生労働省の適応認可がおり、表立って片頭痛の患者さんへの投薬が出来るようになっておりましたが、そうした折、NHK「ためしてガッテン」で片頭痛を卒業したはずの人たちに起こる耳嗚・めまいへの治療効果に就きセンセーショナルな紹介がなされました。自分もちゃんとビデオに撮ってあるのですがデパケンのパッケージが画面に映り、一気に世間への認知度が広まりました。実は、それ以前もデパケンRを片頭痛の患者さんへ「頭痛発作を予防する薬」として処方していたのですが、心ない調剤薬局によっては「あなた、てんかん持ちだったの?」などという薬の渡し方をされたこともあり、患者さんが服用することを躊躇する場面も多く、治療効果も上がっておりませんでした。この番組以降、患者さんの服用率が上がり、かつ治療成績も向上するという、患者さんにとっても投薬する自分にとってもハッピーという状況になりました。
 ただし、こうした事態はあまり(頭痛専門医にとっても)歓迎されたものではない面もあったようで、坂井先生の「学会ホームページ上のコメント」がなされたものと受け止めました。こうした「予防薬治療」はもとより成功率はさほど高くなく、自分も頭痛学会で「予防薬の決め手がない(=数多くの選択肢から選ばざるを得ない)」ことを発表し、何人もの先生のご賛同を得ています。その中でより正解率の高いバルプロ酸の効果を背景にした「脳過敏症候群」説が闇に葬られるような事がないように祈るばかりです。
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付記(2012.09.05)
 後日譚があります。このページをご覧になった方はどうぞ一緒にご閲覧ください。

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2012.08.11

銷夏随想集「リットマンの聴診器について語ろう」

1205 東京都医師会雑誌の8月号に会員の随想集「銷夏随想集」が掲載されています。随筆のみならず素晴らしい写真や書もありましたが、その中に「リットマンの聴診器について語ろう」の一文を採択していただきました。折角ですので(自分の書いたものですし)転載させていただきます。
「リットマンの聴診器について語ろう」
 リットマンとの付き合いは古く、研修医になった頃持っていたのは医学生時代から使っていたもので、現在ある型でいくと「Classic」と似たようなスタイルでチェストピースの膜部分は金属リングでねじ留めされていた(現在の型はプラスチックリングで嵌めるようになっている)。入局早々、同僚の「循環器内科の連中はチューブを短く切って聞こえを良くしている」という甘言に乗って約5-6cmも切り詰めてしまった。その分患者さんの胸に顔を近づけて聴診をせねばならず、結構使いにくくなってしまった。入局したのは循環器内科でなく神経内科であったのに(苦笑)。
 しばらく経って、「Cardiology」というタイプを購入した。少し深めのベル型と膜型を切り替えて使うもので、永年愛用した。その次に買ったのは「Master Classic」である。ベルがなく、膜型のみで押しつける圧力を変えることによって膜型本来の聴こえ方とベル型同様の聴こえ方を切り替えて使えるという触れ込みになっていた。といっても僕の耳では聞き分けられるものではなかったが。これは金属部分以外の部品(膜・チューブ・イヤチップ)などを何度も更新しながら現在でも週1回午前中大学病院の外来ブースで使用している。
 開業してから小児科も兼業することになり、新たに「Cardiology II」を購入した。「Cardiology」のベル型の部分に小児用の膜がついたもので、先の「Master Classic」のように押さえ方でベル/膜の音質が切り替えられると言う触れ込みだったがこれはあくまで成人用・小児用としてしか使い分けていない。このタイプからチューブ内腔が二つに分かれ、聴診音が「ステレオで聴こえる」ようになったと言われるがやはり自分にはわからない。最近担当するようになった特別養護老人ホームで聴診器を用意してくれるというので「 Cardiology III」を購入してもらった。この「III」は以前の「II」と比較するとチェストピースを回転させる部分の精度が低くなっているように思われる。「II」だと所定の位置にロックされる時ヌルッと得も言われぬしっとりさで固定されるのに「III」では「カチン」なのである。細かいところがコストダウンされているのかも知れない。
 最近電子聴診器の話題を目にした。調べると以前のようにチューブの途中にアンプ・電池収納部分が挟み込まれる不格好なものでなくなり、一体型チェストピースに電池も納められる構造で、BluetoothによりPCへ聴診データを飛ばせるという。そこで一つ試しに、と「Model 3200」を早速購入してみた。聴き心地は良好。ノイズキャンセルが効くため衣服の上からでも衣擦れがせず、周囲の騒がしさに強くなった。しかし、聴診しながら患者さんと話すことは不可能となった。また、血圧測定に使う際にはちょっと支えるのが面倒である。まあ今後、聴診器で血圧を測る医者など減ってくるだろうからそういうことまで考慮されていないのだろう。BluetoothによるPC接続はちょっとがっかり。心音図をとることが目的のデータが専用ソフトに送り込まれるものだった。おまけにPCで表示するためにはいちいち氏名を入力して記録モードを立ち上げておかねばならない。不便極まりなく残念。
 僕の「理想の聴診器」はチェストピース部分のみを患者さんの体にあてるとPCのスピーカーから聴診音がきこえ、同時に心音図が表示されるものである。これならイヤピースを耳に入れる必要がなくなる。必要な時に時間を遡って記録が出来ればなおよい。ちょっとした工夫で何とかなりそうなのだが、この文章、メーカーさんの目に留まってくれるだろうか。一途なリットマンユーザーの声を聞き届けてはくれないかなぁ。

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2012.08.06

ITで変わる医療と教育のミライ:Team医療3.0

1208tm3summer 銀座Apple Storeで開催された標記イベントに参加してきました。発起人の杉本真樹先生に始まる各人15分のプレゼンテーションとアクティブなトークセッションで4時間近く(予定では3時間)もかかってしまいましたが非常にアクティブで面白く、またちょっと自分の周囲に利用できないか?というシステムの存在も知らされ、大変有意義な夕べとなりました。プレゼンターにはドクター(Facebookで患者さんの情報を時間外で病院外にいるドクターとも共有する)あり、薬剤師さん・看護師さん・医学生さん(MEDiSHARE宮川さん)・デベロッパーさんありと非常に他職種で、それぞれの分野でのITを利用した医療改革(杉本先生曰く「解放」)のアプローチが示されました。
 大まかな流れとしては医療情報(特に個人にとっての検査情報やドクターの意見)は、今後どんどん民主化が進み、解放されてゆくべきである、ということだったでしょうか。医学教科書もデジタル化・動画化が進むべきで、「でき過ぎた教科書はだめ、先生が教えるべき場所が残されていると良い」「教科書としては『失敗』も映っているとよりわかりやすい」とのコメントもありました。電子カルテも「モニターはシールドになる、ついたてとなって患者さんと医師の距離を遮ってしまう」などと言った指摘もあり、そのためにはiPadで造った教材だとお年寄りまで自分の手で抱えて見てくれるようになるとのことでした。
 われわれ医師はどうしても医師同士の壁の中でディスカッションはしてもなかなか職種を越えて、あるいは世代を超えての討論は普通持つ機会がなく、こうした会がもっとオフィシャルに持ててもいいのではないかと考えました。

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