「五輪マラソンのスタートを5時半に」という松本先生の主張
きょうは東京都医師会理事としての記事を書きます。ご存知の通り、僕は東京都医師会で医療情報担当理事をしておりますが、実は環境省や厚生労働省・東京都・2020オリパラ東京大会組織委員会も関与している「夏期イベントにおける熱中症対策等検討委員会」の委員にもなっております。その委員会でご一緒させていただいている中京大学スポーツ科学部の松本孝朗教授より下記のご連絡をいただきました。
以下引用-----
昨年、今年と取り組んでおります2020東京オリンピックマラソン競技の熱中症予防策 「5時半スタートへの1時間半繰上げの提言」を、第69回日本体育学会(8月24日~25日、徳島)にて、ポスター発表しました。 日本陸連医事委員会、日本陸連、国際陸連医事委員会、国際陸連で審議を経て、本年6月 末に「7時スタート」と一旦は決しましたが、今年の酷暑を経て、国内法のみで対応可能な サマータイムの導入が提案されるに至り、再度、声を上げさせていただきました。 8月23日の朝日新聞夕刊に紹介記事を掲載、24日夜には共同通信社から配信していただ きました。発表当日は、多くの方に見ていただき、応援の言葉を頂戴しました。関西TVさ んの取材があり、25日17:30からのフジTV系列プライムニュースで放送いただきました。 しかし、このままでは何ら変わらず、7時スタートでマラソン競技が実施された場合、ランナーが倒れ救急搬送される、たくさんのランナーが途中棄権する、沿道の観客が熱中症でたくさん倒れ、東京の救急車がパニックになる等の事態が危惧されます。事態を展開するためには、陸連幹部、オリンピック委員会上層部、政府関係者へのアプローチが必要と考えます。是非とも、ご協力下さい。
引用終わり-------
その学会でのご発表は上記の通りですが、特に大切なのが「結果①」だと思います。ここで用いられている「WBGT」というのは、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。WBGTには気温と同じ「摂氏(℃)」の単位が用いられますが、通常の温度ではなく、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標となっています。そして、表示される数値が高いほど生活活動に対する制限が大きくなり、WBGT31℃以上では、特別の場合以外は運動を中止すべき、と定義されています。
ここで、松本先生の「結果①」を見てみましょう。この図の縦軸は五輪のマラソンコースにおける1kmごとの地点、横軸は昨年・本年における時刻をあらわし、そこでのWBGT実測値が色分けされています。「黒」は31〜35℃:「運動中止」をあらわし、「赤」は28〜31℃:「運動注意」となります。そこに現在予定されている7時スタートの最短時間(2時間10分)と最長時間(3時間)がブルーのラインであらわされています。これを見ると、10km地点以降に赤と黒のゾーンがあり、さらに30kmを超えると、すなわちレースの後半1/3はほぼ赤・黒のWBGTが運動に適さないレベルの中を走らなければならなくなります。スタート時間を7時(緑のライン)、もしくは6時(紫のライン)に繰り上げれば安全度が上がります。
この件を僕は9月4日に行われた東京都医師会理事会でとりあげ、尾﨑会長から「東京都医師会の意見としてこの松本先生の学会発表を日本医師会に提言し、東京都やオリパラ組織委員会まで提案する」という決定をいただきました。五輪のマラソンで選手や一般観客・スタッフなどが熱中症により健康被害が起きないようにするためにはこうした開催時間引き上げしか方法がありません。このことがより一般の方々へ周知されること祈っております。
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